公益社団法人 日本文化財保護協会

2025.05.05
文化財DXによる働き方改革 -多様な働き方の実現に向けて-
高橋直崇(株式会社四門文化財)


 過去数十年で驚くほど技術革新は進みましたが、埋蔵文化財の調査においては発掘作業から報告書作成まで、調査担当者から発掘作業員までその大半がいまだマンパワーに支えられている体制に大きな変化が無いことは皆様ご存知の通りだと思います。文化財DXの理念や考え方については他の執筆者にお任せし、ここでは実際の働き方がどのように変わっていくかについてお話します。

 文化財の調査は一つの業務だけでも現場から始まり、整理・報告書作成までとても長い期間を要します。30年近くこの業界におりますが、この一つの業務に向き合い、日々研鑽し、何事も無く仕事を続けられるというのは実は大変恵まれている、周囲の人に支えられている貴重な状況なのだと痛感します。病気や怪我、家族の介護、育児などでフルタイムの勤務や長距離通勤が困難な状況に置かれた時は配置転換を余儀なくされ、また、その能力を発揮する機会に恵まれず止むを得ず職を辞す方もいるのが現実です。

 近年ではデジタル技術の進歩やネット環境が整ったため、現場と各拠点事務所を繋ぎ、現場と各拠点間で情報を共有し整理作業を同時並行で進める環境が既に実現しています。本来現場で行わなければ先に進めなかった図化作業をデジタルデータで直接取得し同時進行で内業に振り分ける等、各現場に配置が必要であった計測スキルを有する人材を内業に配置し、その結果、現場で常に求められる工期の圧縮の実現は勿論のこと、フルタイムでの勤務時間という(各個人の事情で叶わない)制約に縛られない雇用や、複数の現場の同時進行が可能になりました。この変化によって、働き続けることが難しくなっていた人の雇用や、様々な雇用条件での新規採用が随分容易になったと実感しています。今後デジタルデータのフォーマット、整理手順、フィードバックの方法等の一連の仕様を共通化することによって、より効率化が進むと同時に様々なスキルを持った人材を多様な形で雇用できる条件が整えていければと思います。

 データ整理の仕様や納品形態は現状各市町村でそれぞれ異なっており、それに対応できるよう民間調査組織はそれぞれのフィールドの仕様に合わせて個別に改良を加えていますが、全国的に共通の仕様ができれば、会社の枠を超えて全国どこの仕事でも手空きのスタッフが支援することが可能になり、文化財専門スキルを持った人材がより活躍できる環境が整えられるのではと期待しています。