公益社団法人 日本文化財保護協会

2025.06.02
見せる文化財DX:3Dデータ活用で魅力を最大化する方法
志村将直(株式会社シン技術コンサル)

〇はじめに

 SFMやiPhoneLiDARなど簡単かつ安価に3Dデータを取得できる技術が浸透してきました。文化財のデジタル化が進むなかで、3Dデータは単なる記録を超えた「伝えるための素材」として重要性を増しています。この記事では、文化財の3Dデータをいかに「見せる」「使う」かに焦点を当て、その工夫や活用例を紹介します。

〇取得した3Dデータ、どう使う?

 高精度に記録された3Dデータは、そのまま保存しておくことで文化財の現状を将来にわたって残す「デジタルアーカイブ」としての役割も果たします。たとえ遺物が劣化・損傷したとしても、あるいは古墳や城跡などが災害などで消失・崩壊したとしても、元の状態を再現できる貴重な記録になります。

 しかし、高精度なデジタルアーカイブ用のデータは、そのままだとデータが大きすぎて使いにくいのが現実です。そこで、実際の活用にあたっては「軽く・見やすく・伝わりやすい」データへの変換が必要になります。

〇データを軽くする工夫

 3Dデータには主に「点群データ」と「メッシュデータ」の2種類があります。点群データは座標の集合体で、遺物など対象物が小さい場合には視点を対象に近づけることで透けてしまうため、ビジュアル面ではやや不向きです。一方、メッシュデータはポリゴンで面を構成しているため、形状が明確で視覚的にも伝わりやすく、軽量化や各種テクスチャマップ適用などの加工がしやすいため、文化財の可視化や公開に適しています。

・ポリゴンの簡略化

主に2つの方法があります。

デシメート
既存のメッシュのポリゴン数を機械的に削減する方法です。短時間でモデルを軽くできますが、ディテールが失われやすいため用途に応じて調整が必要です。

リトポロジー
形状を保ちながら、新しく滑らかなポリゴン構造を作り直す方法です。手間はかかりますが、品質を保ちつつ効率的なデータ構造にすることができます。
リトポロジーの説明

・レベルオブディテール(LOD)

視点から近づいたら細かく、遠ざかると粗く見せる切り替えることでPCの負荷を減らします。
LODの説明

〇美しく・魅せる工夫

・法線マップ(Normal Map)

高密度メッシュの形状データをテクスチャに焼き付けて、細かい凹凸を視覚的に表現する手法です。
法線マップの説明

・アンビエントオクルージョンマップ(AO Map)

陰影を強調して立体感を際立たせます。
AOマップの説明

〇具体的な活用例

・オンライン展示

ブラウザ上に3Dオブジェクトをアップロードし、誰でもどこからでも閲覧可能な状態にする。


・VR/AR体験

VRで現地に行かなくても遺跡や建物の中に「入れる」体験を提供。ARであたかもそこに遺物があるような体験を提供できます。


・修復や保存の参考

元の状態を高精度に残して、破損時や将来の修復時に活用することが出来ます。


・教育資料

博物館で触れない展示品を、画面上で好きな角度から見たり、拡大したりすることで通常では見ることのできない部分を自由に観察することが出来ます。


・ゲームや映像制作への応用

正確かつ魅力的な3Dモデルとして他分野への展開も可能です。


おわりに

 文化財の3Dデータ化は、専門家のためだけでなく、一般の人々に「伝える」ための大きな力を持っています。正確に記録するのはもちろんですが、いかに見やすく、興味を持ってもらえるかが大切だと思います。目的に応じた工夫と技術の組み合わせで、文化財の魅力をもっと多くの人に届けることができるのではないでしょうか。