公益社団法人 日本文化財保護協会

2025.06.23
健康的なデータ管理
野口 淳(公立小松大学次世代考古学研究センター特任准教授・日本担当理事協会顧問)

日本文化財保護協会による文化財DX推進宣言では、「文化財デジタルデータの価値を、実体のある遺跡や有形文化財などと同等の価値をもつものとして認識」することの意義を謳っています。
同等の価値をもつということは、その保存や管理も同じように行われるべきだということになります。

文化財保護の現場にもコンピューター、デジタルカメラ等が普及するにつれ、取り扱われるデジタルデータの種類と量も飛躍的に増えています。高解像度デジタル画像や3Dデータの普及とともに、単体でGBサイズのファイルももはや珍しくなく、データセット全体ではTB単位となっても驚かなくなりました。大容量の外付け記憶装置やインターネット経由のクラウドストレージが当たり前のように使用されています。1.4MBのフロッピーディスクをに収まる文書や台帳だけを扱っていた時代は、いまとなっては遥か大昔のことのようです。

しかし電磁的に記録されるデジタルデータは紙図面や写真と異なりスペースをあまり取らないことから、量が増えている実感が少ないかもしれません。

では、デジタルデータは無制限に増やして、それらを全て保存していけば良いのでしょうか?

現時点での答えはノーです。

ひとつには記憶装置・媒体の問題があります。どれだけ小型軽量化が進んでも、それを上回る量でデータが増えれば、保管スペースが必要となります。またネットの向こうのクラウドストレージも現実空間のどこかにサーバーを集積したデータセンターがあります。それらは決して無限、無尽蔵ではありません。

もうひとつはデータ管理・処理能力の問題です。どれだけコンピューターの能力が向上し、データ処理の速度が高まっても、それを上回るペースでデータが増えれば、必要なデータの検索、通信転送に要する時間も増えます。

データの保存は、それを利用するために行うものであり、ただ残しておけば良いというものではありません。

そこでデータの整理分類と保存戦略が必要となります。詳細は参考資料を見ていただきたく、またDX推進委員会でもガイドラインを提示していく予定ですが、ここでは基本的な考え方を示しておきます。

  1. 原記録の保存:再取得が困難または不可能な一次記録データは可能な限り保存する必要があります
  2. 作業ファイル・データは保存しない:原記録から最終成果物に至るまでの作業途中のファイル・データは一時保存のみとし、原則長期保存しません
  3. 一時保存と長期保存の明確な区分:2と関連して、作業途中のファイル・データの一時保存場所と長期的なバックアップ、アーカイブの場所は明確に区分されるべきです
  4. 互換性・再利用可能性:原記録、最終成果物ともに特定の機器・ソフトウェアでのみ利用できるものではなく、互換性の高い形式で保存しなければなりません。可能ならばオープンフォーマットを採用するべきです。
  5. 作業における効率性:逆に作業途中のファイル・データは作業に用いる機器・ソフトウェアに対応した形式で保存するべきです。これは固有の機能に対応でき、かつ頻繁な更新の際に効率的だからです。しかしこれはあくまで一時保存の対象です。


工程別のデータ種別の整理:3D写真計測の場合

以上の原則に従って、原記録の一覧・台帳を整備、バックアップを取り、ついで編集加工の作業計画の中にファイル形式の変換・保存ポイントを明示していくことが望ましい対応となります。少し手間がかかるように思われるかもしれませんが、最終的に適切な状態でデータを保持することで、長期的な保管と繰り返しの利用が可能になります。

データ管理も健康管理も、日々の積み重ねが重要な点は同じですね。


出典:いらすとや「体重計・男の子」

参考資料

『考古学・文化財デジタルデータのGuides to Good Practice』
https://sitereports.nabunken.go.jp/115623

「3D写真計測のアーカイブを考える」
https://sitereports.nabunken.go.jp/ja/online-library/report/40

挿入図版 工程別のデータ種別の整理:3D写真計測の場合
https://sitereports.nabunken.go.jp/ja/cultural-data-repository/43
(図2をダウンロードしてください)

挿入イラスト 出典:いらすとや「体重計・男の子」
https://www.irasutoya.com/2012/12/blog-post_9421.html