2026年2月4日、対面(東京アキバホール)、オンライン(YouTube Live)の併用により、シンポジウム「文化財DXと発掘調査のイノベーション」を開催しました。事前申し込みベースの参加者は、対面会場157人、オンライン359人(アーカイブ視聴申し込みを含む)、合計516人でした。主催者として想定を遥かに上回るご参加をいただけたことは幸甚の至りです。
ご登壇いただいた、文化庁文化財第二課埋蔵文化財部門主任調査官・近江俊秀、国土交通省大臣官房技術調査課参事官(イノベーション)グループ施工自動化企画官・菊田一行、国立文化財機構奈良文化財研究所埋蔵文化財センター長・馬場基の各氏、および開催にご後援をいただいた独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所、一般社団法人日本考古学協会、日本情報考古学会各位には深く感謝申し上げます。
事務局の集計による参加者の内訳は以下のとおりです(数値は変更になる可能性があります)。
| カテゴリー | 対面会場 | オンライン | 合計 |
|---|---|---|---|
| 行政担当者 | 39 | 156 | 195 |
| 博物館等 | 1 | 1 | 2 |
| 大学・研究機関 | 8 | 29 | 37 |
| 学生 | 3 | 16 | 19 |
| 民間企業等 | 97 | 111 | 208 |
| プレス | 3 | 1 | 4 |
| その他・一般 | 6 | 45 | 51 |
| 総合計 | 157 | 359 | 516 |
対面会場
オンライン
合計
考古学・埋蔵文化財関係者が大半であったかと思いますが、隣接分野等からご参加いただいている方もいらっしゃいました。文化財DXへの注目が広がっていることを示しているかと思います。
さて本シンポジウムについては、今後、記録集をまとめて公開する予定です。それに先立つかたちにはなりますが、主催者として、また討論の司会を担当した立場として、いくつかの論点について触れておきたいと思います。
1. 業務の見直し・目的の再定義
文化庁近江主任調査官が、講演・討論で、いまの業務のあり方について、それ自体が目的化していないか見直す必要性に言及されました。
ある仕組みが、それが作られた時点では限りなくベストだったとしても月日が経ち状況が変わると必ずしもそうではなくなることは多々あります。その見直しなしにルーチーンワークとして、前例踏襲を続けると、状況の変化に対応できず、非効率化、業務全体の阻害要因になり得るということは文化財やDXに関係なくおこりがちなことかと思います。
そうした状況が見出された時に必要なのは、必ずしも、その仕組み自体の全面的な変更、スクラップアンドビルドだけでありません。今ある目の前の仕組みを要素分解して、機能や目的ごとに仕分けし、最適化するというアプローチもあり得ます。
後者の場合、以前はひとつの仕組みの下に統合されていたプロセスやアウトプットが分割・分散されることもあり得ます。そのときに、仕組みとプロセス、アウトプットが目的化していると、全体は密接不可分であり分解や再編成はできないという反応が生じがちです。それは変化に対する忌避や抵抗にもつながるでしょう。
しかしながら、ある仕組みとそのアウトプットがかつてベストだったのは、その形式によるものだったとは限りません。ある目的に対して、技術の発展や状況の変化が生じれば、手段や方法が変わることは当然です。ベストだった仕組みの本来の目的は、その形式を保つことではなかったはずです。
そこで必要になるのは、当初の目的の本質を分析・特定し、かつ時間の経過による状況変化にともないベストでなくなっていることを認識することで、要素分解と再編成が必然であることを理解できるようになるでしょう。
こうした現状の認識と理解は、ひとつの事業所、ひとつの職域だけでは困難な場合があります。なぜなら、グループ、組織全体が同じような思考になっていることが少なくないからです。これを専門分野・業界に広げても同じことが言えるかもしれません。
今回のシンポジウムでは、国土交通省菊田企画官により、ICT施工、iConstruction推進の過程における課題と解決策が示されたことで、文化財分野の課題を、一歩ひいた視点から俯瞰することがかのうになったのではないかと感じました。
参加・視聴されたみなさんはいかがでしたでしょうか? ぜひご意見・ご感想共有ください。お待ちしております。

2. 標準化・ルールづくりの必要性
シンポジウムでは、講演でもその後の討論でも「標準化」「ルールづくり」が繰り返し言及されました。特に国土交通省菊田企画官からは、DXのコアとなるデータの利用(再利用)可能性において標準化が重要であること、また各種施策を現場に落とし込むためにはルール化が必須である点をご指摘いただきました。
また奈良文化財研究所馬場埋蔵文化財センター長からは、研究所において3Dデータ等に関する標準案を作成・公表する予定であることが表明されました。データや工程の標準化・ルール作りについて、文化財分野でも認識が変わりつつあるのだなと思った次第です。
10年以上前、まだDXの議論がはじまる以前に、考古学・埋蔵文化財のデジタル化について議論した際、標準化の必要性について言及したところ、埋蔵文化財行政とはいえ考古学という学術も関わるものであるので標準化が学術的な新規発見や新しいアイデアの創発を阻害しかねないという点にも注意すべきだという指摘を受けたことがあります。いまあらためてこの指摘を思い返してみると、標準化・ルール作りについて条件設定のレベルを明示することが重要なのだなと感じます。
データの標準化とは、その意味内容を拘束するものではなく、人と計算機械(コンピューター)が相互にデータをやり取りして効果を上げるためのルールづくりです。デジタル機器の導入とともに、取得できるデータ量、それにともなう情報量はますます増えていきます。過去の蓄積も減ることなく増えていきます。これらを効率よく利用するために機械の力を借りなければ立ち行かない時代になっています。加えて、少子高齢化に伴う働き手不足も深刻化する一方なので、あらゆる産業分野で機械化・自動化が必須となっていることは、シンポジウムでも議論されたところです。
計算機械の計算・データ処理能力は人間では太刀打ちできないものです。一方で「融通が効かない」という問題もあります。ルールの定まっていなデータは、機械の前ではゴミの山になりかねません。これまでの蓄積もこれからの成果も活用するために、DX推進に向けた標準化とルールづくりを考えるタイミングなのだと強く感じました。
とは言え、そこには文化財、とくに埋蔵文化財行政に固有の課題も立ちはだかっているのですが... (以下、続く)
